開発を止めない!
「薄」を極める装置メーカー
昨今の半導体業界の開発の波は著しい。IT革命に伴い、世界中の企業がさまざまな半導体の開発にしのぎを削っている。競争激しい半導体業界で、20年来の勝負を続けてきた会社が富士見にある。一世一代で会社を興し、売り上げ20億円を超える企業にまで発展させた河東和彦が率いるベアックだ。“軽薄短小”を極め、開発をたゆまず続ける企業風土。進化し続けるベアックの秘密に迫る。
「薄」に着目した技術展開
ベアックは、半導体の加工装置、露光装置などの設計から開発、販売まで手がける装置メーカーだ。
「武士のちょんまげスタイルのままでは笑われちゃうでしょ。今も昔も時代は常に変わっていくもの。開発屋は開発をとめちゃいけないんだよ」独特な例えを用いて話すのは代表取締役、河東和彦だ。
1984年の創業から約40年、河東一代で年商20億超の企業へと成長させた。
創業当初は諏訪市に本社を構え、時計の精密加工、省力化装置の設計制作を行ってきた。のちに富士見町へと移設、薄く屈曲できるフレキシブル基板(FPC)の需要の高まりに伴い、FPCの加工装置開発に着手、数年後には同装置をシリーズ化して販売してきた。回路に損傷がなく、ねじりや曲げに強いフレキシブルな基板はあらゆる半導体製品に重宝され、同社の売り上げは右肩上がりとなった。
より軽く、より薄い“薄(はく)”を極め続ける装置の加工技術は、フィルムで12.5μm、金属箔は50μmという薄さを可能にした。加工装置から生み出された製品は、スマートフォンや液晶・有機EL表示パネルなどの製品に組み込まれ、時代が求めた“軽薄短小”と合致する製造装置を開発してきた。
特に注目したいのは、FPCの表裏回路に電流を流すための革新的な穴あけ加工技術だ。これまで電流を流すための穴あけ加工、いわゆる穿孔(せんこう)装置は、ドリルマシン方式(シートを重ね合わせドリル刃でねじ込みながら穴をあける方法)が一般的だったが、パンチプレス方式(異素材のシートを張り合わせた後にプレスで打ち抜く)の技術を確立した。機械産業技術の進歩・発展に著しく寄与した開発に贈られる「新機械振興賞・中小企業長官賞」にも輝いた技術だ。
従来のドリルマシン方式に比べて、作業効率、省資源、ランニングコストの大幅な削減など、製造業の技術革新に大きく寄与、国内外のユーザーから高評価を得ることができたという。この製造装置を軸に、高効率・高精度を追求した15機種のFPC加工装置のラインアップが並んでいる。
成功へのステップは「やってみなければ分からない」
ベアックの技術革新の根底にある価値観は「やってみなければ分からない」だ。この言葉の意味を河東は語る。
「開発において『やり方がわからない』という段階があるけど、その次は『やり方は分かるけど、やってみなければ分からない』という段階にぶちあたる。うちは『やってみたら分かる』の精神を大切にしてるんですよ。『やってみたら分かる』ならば、あとは言葉通り手を動かして頭を動かすだけ。失敗もするけど、なぜ失敗したのかが分かれば上出来。もう1回挑戦すればいいだけだから。社員には『失敗の責任はすべて私が取る』と口を酸っぱくして言ってるの。楽しまなきゃいいもん(製品)はできないよ」
ベアックには開発者にとって2つの最適な環境が揃っている。
柔軟で突飛なアイデアを躊躇することなく言える心理的環境、そしてアイデアをすぐに実践できる実務的環境だ。創業者であり、社長であり、時に父のような包容力を感じさせる河東あっての環境ではないだろうか。
社員は沖縄県にあるベアック沖縄の工場を合わせると40人ほど。社員のほとんどは開発に従事する。
「とにかくうちは社員が優秀。彼らは自分たちで毎日情報収集しているし、頭をよく使っている。実験も自主的に行える社員が多いんだよね」
社員の中で希望があれば、学費を会社で負担し信州大学の大学院へ通わせているという。高専出身者が多いこともあり、技術に対する学習意欲が高いようだ。信州大学工学部の修士課程は夜間や休日に通うそうだが、なかには首席をとった社員もいる。
再生エネルギー事業に着手
難しいは面白い
再生エネルギーに注目が集まる昨今。ベアックでは環境問題への関心が高いヨーロッパの企業と提携し、2年前から主力製品であるFCP加工装置技術を応用した再生可能エネルギー分野への参入を視野に入れている。
べアックが担うのは、0.1mmの金属プレートに凹凸を成形するフロープレート(流路)の開発だ。フロープレートは酸素と水素を流すことができ、電気を発電することができる。量産できれば電気自動車部品の製造にも大きく寄与することができるという。
「これからはエネルギーを消費する会社ではなく、エネルギーを作る会社がリスペクトされる時代。そっちの方がかっこいいよね」
量産化は2025年を目指している。
「江戸時代、武士は大真面目にちょんまげをしていたけれど、明治の文明開花を過ぎれば、ちょんまげ姿は笑い者だったでしょ。昭和の高度経済成長期には、スモックを発生させて、水も汚染させていた。いまは環境汚染がかっこわるい時代だよ。時代は変わるものだからね。その中で、開発を止めないことが大事。ニッチグローバルに拡げなければ生き残れない業界なんだから、いろんなことにトライしなきゃ。未来と世界をいい方向へしていきたいよね」
アジア、そして世界へ
ニッチグローバルを目指す理由
2007年には、沖縄県の工業団地に工場を開設した。沖縄県は、県の援助もあり、納品先のアジア諸国へもアクセスがよく、製造業の発展が期待できる地。富士見町のベアックと同様、現地の沖縄高専の卒業生を積極的に採用している。さらに、同じ工業団地内で6000坪の敷地を購入、工場の増設を視野に入れている。
「需要が上がってきてから土地を探しても遅いですからね、先行投資。量産もすぐ対応できる準備は整ってますよ」
時代の変化をいち早く感じ取り、立ち止まることをよしとしない河東。
先進的な行動を起こす心構えを常に持ち歩いている限り、ベアックの進化は止まらない。
取材・執筆:竹中唯
構成・編集:澤井理恵(ヤツメディア)
写真:五味貴志
動画:山田智大(やまかめ)
株式会社ベアック
【設立】1984年
【所在地】
〈株式会社 ベアック〉
〒399-0214 長野県諏訪郡富士見町落合字南原山9984-1097
〈株式会社 ベアック沖縄〉
〒904-2311 沖縄県うるま市勝連南風原5193-50
【連絡先】TEL:0266-62-6858 FAX:0266-62-5150
【代表者】代表取締役 河東和彦
【従業員数】40名
【webサイト】http://www.beac.co.jp
【事業内容】電子部品製造装置、BOC基板の形状加工、金型製造、その他の加工、及び装置の組立
【設備】デジタルマイクロスコープ、ワイドエリア三次元測定器、精密新侵漬形ワイヤ放電加工機
(記載の内容は全て取材時点の情報です)
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