によって育まれた、
精密の町。
信州・八ヶ岳の麓にある高原の町、富士見町。
“東洋のスイス”と呼ばれた諏訪エリアの中でも、標高の高いこの町には、
戦後多くの精密機械工場が誕生し、今も世界中のメーカーに製品を届けています。
その優れた精密技術と品質を向上させてきたのは、他にはない八ヶ岳の自然環境でした。
精密部品の洗浄に不可欠な、不純物のない水。
少しの誤差や劣化も許されない、部品管理の大敵となる温度と湿度。
この条件を満たす上で、綺麗な軟水と冷涼な空気をもたらす八ヶ岳は最適な場所でした。
そしてその豊かでありながらも厳しい自然環境の中で培われた、
生き抜く力と工夫する 知恵が、精密機械製造に必要な人を育てることにもつながりました。
グローバル化とオートメーションがどれだけ進んでも得られない、
風土がもたらす環境と、ひたすら技術を磨き限界に挑戦する人々が、この地にはいます。
八ヶ岳の水と空気が生んだ精密の町、富士見町へようこそ。
日本主要流域の一つである富士川水系と天竜川水系。
この水系を二つに分ける分水嶺を有する富士見町には、
八ヶ岳の地下水と、入笠山の地表水からなる清浄な水源が15箇所もあり、
周辺エリアだけでなく、接続する流域の地域の暮らしを支える源でもあります。
すっきりとした味わいが魅力の軟水が湧き出る湧水の周辺には、
縄文時代の遺跡や集落跡地が多く見つかっていることから、
湧水を中心に太古から多くの人が暮らしていたことが窺えます。
この清浄な軟水が精密部品の洗浄に欠かせない資源として重宝され、
戦後の精密機械工業を支えてきました。
富士見町の水は、太古の時代から現代の生活を支える基盤であると同時に、
精密部品の品質を左右する重要な要素です。
標高が700〜1200mと高いエリアに位置する富士見町は、
冷涼で快適な空気で知られています。中でも特筆すべきは工場に最適な湿度条件。
八ヶ岳西麓の標高1000m地点における湿度は平均40%前後と、
60〜70%を記録する東京に比べてはるかに乾燥しています。
夏の気温は28〜30度に達しますが、
それでもあまり不快に感じないのは低い湿度にあるのでしょう。
人間が不快に感じる環境の湿度は50%以上、
またダニやカビの繁殖力が強まる湿度は60%と言われていますが、
この土地特有のカラッとした空気は、
人が健康的な生活を営む上で理想的な条件にあると言えるでしょう。
その理想的な環境条件は、精密部品製造においても同じこと。
部品製造において致命的な錆やカビ、
静電気を発生させにくい湿度環境は40〜50%が好ましいとされています。
今ではどの工場でも、コンピューター制御による徹底した温度・湿度管理が行われていますが、
精密部品製造に不可欠な環境条件が、自然な形で揃っていることは、
この地がいかに精密機械企業にとって最適な土地であったかが分かります。
清浄な水と快適な空気に恵まれた土地ではありますが、もちろん良いことばかりではありません。
いまでこそ暖かくなってきてはいるものの、高原の冬は厳しく、
かつては真冬の気温がマイナス20度を下回ることも。
凍てつく冬を工夫なくして乗り切ることはできませんでした。
数百年以上前からこの地で生活し、農業や製糸業、酒造りから寒天作り、
さらにはノコギリなどの工芸品まで。この地の人々が生み出してきた数々の生業や技術は、
厳しい生活を知恵と工夫、住民同士のチームワークで乗り越えてきた故の産物であるとも言えます。
また、決して裕福とは言えない土地であったにも関わらず、
淡々と試行錯誤と勉学に励みながら生きてきた住民の人柄は、
この小さな町から輩出された文化人や学者、実業家の多さが物語っています。
そしていま、この地の精密機械企業のもとには、
半導体や自動車・航空業界など、国内・海外メーカーから開発の相談が届き、
町内の企業同士による協力のもとに、多くの製造が実現しています。
豊かでありながらも厳しい自然環境を生き延びてきた“富士見人”のバックグラウンドは、
微細な製品作りと試行錯誤を突き詰める技術者としての姿勢、
そして厳しい環境下でもお互いを支え合う企業人としての姿勢へとつながっているのかもしれません。