企業イメージ:ベテル工業株式会社

財務と情報の戦略で
小型基板に再び光を

ベテル工業株式会社

ものづくり企業の盛衰は、どのようにして道を分かつのだろう。大ロットを請け負う生産力の構築?納期の正確さ?VA/VEを実現する独創的な提案力?もちろん、どれも重要な武器になり得るが、現在ベテル工業がなし得ている快進撃の理由は、また別のところにあるようだ。それは、徹底した情報収集をベースにした、経営手腕の発揮。地方都市の公務員として財務を担っていた社長・良邊(ややべ)和孝は、異業種からの転身による新鮮なまなざしで大胆な経営改善を実施。斜陽産業と言われて久しい「小型プリント配線基板」の製造分野において、業界の熱い注目を集めている。

「遅くなってすみません、いま、ちょっと驚くような連絡が入っていて」

興奮を隠しきれない、という様子で出迎えてくれた社長・良邊和孝。聞けば、「詳細は言えないのですが、今までにないくらいの大口依頼があって」と話す。
ベテル工業が専らとしているのは、5~50mmまでの小型の片面・両面の基板製造。とくに「片面プリント基板」は、立体的で複雑な回路を形成することこそできないものの、コスト的にメリットの大きな配線基板であることに注目し、力を注いでいる。

かつては「日本のお家芸」と言われた、この分野。しかし、2000年ごろを境にその技術が海外に流れてからは、価格競争に勝てないなどの理由から、いつしか斜陽産業の筆頭のような存在に。富士見町でも、「ほとんどの同業者が倒産または事業撤退をしてしまった」と、良邊氏はいう。

この分野で昭和47年から事業を続けてきた同社もまた、長く経営に苦しんでいたという。妻の実家の家業であったベテル工業に良邊が参画するようになったのは、約20年前から。「いつ潰れてもおかしくないような状況でした」と振り返る。
「ただし」とそのあと、こう続けた。
「うちは、たとえどんな状況だったとしても廃業はしなかった。この事業を諦めることはしていなかった。それによっていつしか競合がいなくなり、今、チャンスがめぐってきているんです」

ベテル工業社長・良邊和孝。出身地である静岡県裾野市もまた、富士見と同様ものづくり産業がさかんな地域だった

静岡県生まれの良邊は2013年ごろから経営に携わり、2018年に社長に就任。徐々に時間をかけて事業の立て直しを行なっていった。ここで役立ったのが、良邊が歩んできた経歴だ。大学では法学を修めたのち、京都市役所で長く携わっていたのが、財務の仕事。この経験が、のちに役立つこととなる。

それまで「典型的な家族経営で、お金の使い方はお世辞にも上手とは言えなかった」という同社に、財務改善というメスを大胆に入れた良邊。光熱費に電話回線の本数の見直し、人件費、経費で買うべきもの、そうでないものの判断まで。これまでの出納を徹底的に調べ上げ、「お金の出入りを明確に」するところから再起の第一歩を踏み出したのだった。

「事業改善に近道なし」足で情報を稼ぎ、ウェブで世界に発信

社長に就任するにあたっては、「本当に続けてよいのか、廃業も選択肢の一つに入れて、業界の調査を行なってみた」のだとか。

「家族や周囲の評価では、『もう小型基板の仕事は海外に取られてしまった。国内の企業には仕事がない』と言われていたけれど、少し調べただけでもそんなことはなかった。今までの慣例を取り払って外に目を向ければ、競合が減っているぶん私たちにもまだまだチャンスはある。『これはいける、食べていけるネタはまだある』、という感触をつかんだからこそ、もう一段アクセルを踏んでいこうと気持ちが固まりました」

そして一方で、多層プリント基板の受注は一切せずに、まず片面・両面プリント基板のみに特化する、としたことも、現状の設備や事業規模を考えた同社の経営判断の一つだ。

インターネットを駆使した調査は、基本中の基本。こだわったのは「足で情報を稼ぐこと」だ。同業でナンバーワンといわれる会社を訪ねてみたり、基板の母材を製造している東北の企業まで足を運んだり。「できることはすべてする」との決意で動いた時間は多くの情報とスペシャリストたちとの出会いをもたらし、着実に経営の血肉となっていった。

「どの会社の社長も、母材までたどって足を運ぶ人はいないようで、訪ねれば喜ばれるし、たくさんの学びをいただけるんですよね。いわゆる業界の情報通と言われる人にもお会いする機会を得ましたが、弊社のことは『ノーマークだった』と。それはショックというよりも、ありがたい発見で。知られていなければ受注は入らない、それは当然のことですよね」

そうと分かれば早速プロに依頼して、自社のホームページを制作。見やすく、わかりやすいウェブサイトは新規顧客獲得の頼れる窓口となった。
やるべきことを見極め、一つひとつ、行動に移す。タスクを潰していく。そんな着実な歩みが、同社の「いま」につながっているのだ。

「新規受注に大きな助けとなっている」という、同社のウェブサイト

晴れて新規の問い合わせを受けた際も、良邊は冷静さを失わない。経営を担うにあたって設定したルールは「難易度にかかわらず納期は受注の1ヶ月後。ただし納期は必ず守ること」、「割に合わない仕事は受けないこと」、そして「どんなものに使われる基板なのか事前に情報提供を受けること」。その背景にはこんな思いがあるという。

「目の前の仕事を追いかけてスケジュールをぐちゃぐちゃにしてしまえば、労働環境は悪化するし、品質の低下にもつながります。そして価格面は皮肉なことに、同業・同規模の工場は海外への技術の流出によって一度淘汰されつくしているわけです。足元をみてふっかけるような真似さえしなければ、条件が合わなくてお断りしても、しばらくして『やはり頼みたい』とお声がけいただけます。

最後に、どんな基板なのかを知ることも、品質の最適化につながる大切な要素です。『子どものおもちゃのスイッチ』と聞けばバリを見逃さないよう一層気持ちが入ったり、手を動かす側がイメージできることで、仕事の質は確実に上がると信じているんです」

メイドイン・富士見の技術力を活かし、未来に続く仕事を

冷静に状況を判断し、経営の手綱を握っていくことで、経営は大きく改善。受注元の企業も従来の諏訪圏にとどまらず、東京や名古屋にまで広がった。
ただし、このような経営ができているのはもちろん、先代から続く富士見ならではの高いものづくり技術があってこそ。出荷前の検査には、「人の目」を重視。「特殊技能であり、事業の要のひとつ。ていねいに時間をかけることが大切です」と、検査員の育成にも注力している。

過去事例の一部。熱硬化型レジストインク、UVキュア型レジストインク、紙フェノール樹脂基板製造技術でも高い信頼を獲得している
検査のようす。機械検査が主流になるなか、目視による検査を徹底しているのも、ベテル工業の強みだ

ではここから、ベテル工業はどのように歩んでいくのだろう。

「小ロット・片面のプリント基板製造においての寡占化、ナンバーワンになることは達成したいと思っているし、できると考えています。そこが伸びきったら、大ロットは控えながらも小型を伸ばすか、片面を伸ばすのかーー。まだまだ、検討し決断しなければいけないことは出てくるでしょう。

受注が落ち込んでいるときよりも注意しなければいけないのは、拡大しているとき。仕事が増えたからといって闇雲に規模拡大をすると、ランニングコストも大きくなり、事業規模に制約が生まれてしまう。今の従業員数、工場の規模、使える機械にとって最適な仕事とはどういうものか。適切に判断しながら、未来に続いていく企業をめざします」

取材・執筆:玉木美企子
構成・編集:栗原大介(ヤツメディア)
写真:五味貴志
動画:山田智大(やまかめ)

ベテル工業株式会社

【設立】1972年
【所在地】〒399-0213 長野県諏訪郡富士見町乙事5243番地
【連絡先】TEL 0266-62-2858
【代表者】代表取締役 良邊和孝
【従業員数】9名
【事業内容】プリント配線基板製造
【webサイト】https://www.betell.co.jp

(記載の内容は全て取材時点の情報です)

ベテル工業株式会社への
お問い合わせはこちら

SEIMITSU FUJIMI の情報をメールでお届けします!