企業イメージ:株式会社山田製作所

鎮火を1秒でも早く
消防を支える金具メーカー

株式会社山田製作所

消防自動車、消火栓、消防用ホース。万が一に備え、私たちの日常を守ってくれる消防製品。目立つ製品ではないが、消火活動にあたる消防隊員・消防団員たちを支え、いざというときに炎から守ってくれる欠かせないものである。そんな消防製品に静かな情熱をそそぐ企業が富士見町にある。中央自動車道諏訪南ICから富士見町市街へと伸びるテクノ街道沿いに工場を構える株式会社山田製作所だ。1分1秒でも早く火を消しとめられるように。その一心で製品改良に挑む山田製作所の裏側をのぞいてみた。

消防用金具の専門メーカーとして

株式会社山田製作所は、1946年に諏訪市豊田にて創業し、75年目を迎える息の長い会社だ。創業当初は農機具の修理などを手がけていたが、取引先であった会社が消防用の小型のポンプの製造をしていたこと、国家消防本部検定規格が制定された当時、いち早くその認可を得られたことがきっかけで消防用金具の製造へと移行し、現在では設計・製造・販売までを手がけている。

現在製造する製品はほぼ100%が消防関連の金具である。国内に消防用金具を作るメーカーはわずか4社。前述した国家消防本部検定規格の認可取得が必要なことで競合が限定されるニッチな業界だ。製品に求められるのは国に定められた基準をクリアすること、「安心・安全」が第一となる。

7年前に社長に就任した笠原正司は4代目。創業者は笠原の祖父にあたる。

会社を継ぐつもりはなかったという笠原は、それまではマーケティング・調査会社という畑違いの仕事をしていた。まったく違う業界ということで最初こそ抵抗があったというが、製品を通じて国民の安心・安全を担保できる、それを守る仕事ができることに対して誇りを感じられるようになるまで時間はかからなかったという。

4代目代表取締役 笠原正司
山田製作所の主力製品 消防用ホースの継手(写真左)と管槍(写真右)

山田製作所の主力製品のひとつは、ホースとホースを接続する継手で、直径25ミリから300ミリまでの11種類を製造している。このほか消防隊や消防団が使うもの以外にもホテルや公共施設などの消化設備の製造も手がけている。

笠原曰く、消火活動の現場には、けがや事故につながる要因が多く潜んでいるという。

消防隊員がホースを這わしながら現場まで移動する際、道路の摩擦、壁や階段などの障害物にあたって継手部分がまれに外れてしまうことがある。外れてしまうと当然水は送れなくなるが、再度ホースを引きなおす間にどんどん火は燃え広がり、亡くならなくてよかったはずの方が亡くなってしまうこともあるのだそうだ。

また、消防隊員は強い圧がかかるホースに体重を預けて消火活動を進める。その際、継手部分が外れてしまうと圧力が一気に落ちて、消防隊員が前につんのめってけがをしてしまったり、大きな事故や殉職につながってしまう事例も起きている。

「私たちの製品は命に関わる部品を作っているということを肝に銘じなければいけないんです。未然に防げる事故やけがを減らしたい、接続しやすく、かつ外れにくい金具を日々追求しています」

消防自動車の限られたスペースに積載できるホースは1本20m、平たく巻かれて格納される。効率よく格納することが必須だが、継手の厚みの分はどうしても確保しなければならない。ホースの積載量は継手のサイズに左右されるのだ。笠原曰く、火事の現場では、あと1本ホースがあれば火元まで届くのに、その1本がなかったために消火活動に遅れが出ることも少なくないという。

このような状況を改善するため、山田製作所では継手のスリム化に着手した。継手を細くした改良によって、従来より多くのホースを積載することに成功したのだ。

もう一つの主力製品である管槍は、放水するホースの一番先端につける金具である。管槍は本体と先端につけるスムースノズルからなっている。従来製品は接合部にネジの溝をつけ、回転させながらねじ込むように接続するが、山田製作所製の管槍は、拡管した圧力で本体とノズルがガチャンと音を立てながら接続される。従来のネジ式の場合、使い込んでいくとねじ込んだ角度や締め付けの緩みなどで外れてしまうことがあるが、ネジの溝がないため、すり減ることや締め付けの緩みがでることはない。従来品より強固な接続方法を開発したのだ。

新しい発想で開発したノズルの接合部分

消防にかける熱い思いの源

笠原が自社製品に強い思い入れを抱く理由は消防団に笠原自らが所属していた経験が大きく影響している。

消防団では、消火技術の向上を目的に開催される「操法大会」というものがある。ホースをポンプに接続し、的に向けて放水をするまでの技術、タイムを競う競技だ。山田製作所では「操法大会」のポンプ車操法に特化した操法用の金具の製造にも力を入れている。

社長自らが競技に参加した経験はもとより、各地の消防団に足を運び、試作品を使ってもらうなどして、それぞれの団の技量によっても使い分けられるようなラインナップを揃えているという。操法用の金具のシェアは95%にも上る。

安全を担保し続けるためのあゆみ

山田製作所では常にテーマを設定しながら開発製造を繰り返している。現在はOEMが多いというがそこにもまた部品メーカーとして誇りがあるという。

「いろんな考え方があるんですけど、エンドユーザーからみると、ホースメーカー大手の帝国やキンパイの製品が欲しくてホースを買ったのに金具だけ山田のマークがついているのはどうだろう、という疑問があるはず。だったら部品までそのブランドを表示した方がいいだろうと私は思っている。それぞれのブランドに合わせたもので、彼らのブランディングの戦略を聞きながらそれに合わせて金具を作る。そうすることでうちの製品にも付加価値がつきますし戦略の一つだと考えています」

敷地内にある消防自動車を使った製品チェックの様子。水がまっすぐに飛ぶかが重要

持続可能な社会を支える取り組み

山田製作所はSDGsへの意識も高い。持続可能な社会を目指した取り組みにも力を入れている。

笠原は、公共施設やホテルなどの屋内で使用される製品であればゴムは必要ないのではと考えた。通常の継手は、消火作業中に地面を引きずられることを想定して作られているため、金属と地面が直接擦れないよう中心部分をぐるりとゴムで巻いて補強を施してある。これまでの規格では設置箇所を問わずゴムをつけねばならない仕様であったが、ゴムのない規格を開発し、新たに認可を取ったのだ。

まわりのゴムがなければ中のパッキンだけ抜けば金属だけになり、金属部分のリサイクルがしやすくなる。

さらに加工方法でも工夫を施している。通常は切削で加工するところを、大部分を鍛造にして削る部分を極力減らすことに挑戦しているのだ。省資源になり、そのうえ加工にかかる時間も短くなるので省エネルギーにもなるという仕組みだ。一見鍛造には見えない形状を、0~0.2mmの誤差で生み出せるのはまさに長年培ってきた知恵と技術によるものだ。

結果、金属自体も従来のものより3割ほど原材料を削減し、施工もしやすくなっている。施工も楽で省エネルギー、省資源、さらにリサイクル、リユースもしやすいまさにSDGsな製品を生み出している。

鍛造で作り上げる形状。独自の技術で省資源・省エネルギーを実現
山田製作所のロゴが入った帽子。
創業者である笠原の祖父は4人兄弟で、その4人が手をつなぎ合って社会に貢献していこうとする姿がロゴのひし形に表れている

強固な地盤が支える品質と自動化

山田製作所は、2011年に富士見町へと工場を移した。

かつて諏訪市の工場のあった場所が住宅地だったため、ISO14001を取得しようとしたときに騒音が問題となってしまったのだ。それをきっかけに移転先を探し始め、候補にあがったのが富士見町だった。

「富士見町の中でも特に静かなこの場所なら騒音で苦情がくる心配もありません。高速道路が近いのでアクセスもよく、製品を直接発送する当社としてはその点でも申し分ない。そして町の方がとても熱心に誘致してくださったことは大きいですね。せっかくなら『きてください』って言ってもらえるところがいいなあと思い移ってきました。

諏訪の工場は地盤が緩くて結構揺れたんです。あちらにいた当時はそんな精密な機械は入れてなかったんですけど、ロボットを入れたり自動化を進めたりするにはどうしても揺れがあるとうまくいかないというのもありました。その点でも富士見町は地盤も強く、浸水の心配もないので安心です」

現在山田製作所はISO9001とISO14001を取得済み。
手作業と自動化どちらにも対応できる技術力が製品を支えている

失敗を恐れず人を育てる

従業員の一人に話を聞くことができた。

製造部第1部加工チームのリーダーの北原謙太だ。富士見町の出身で地元諏訪地区の進学校から高卒で入社した。

「富士見町の出身なので町内の会社に勤めたいと思っていました。同業者が少ないニッチな製品を作っているところや、人の命を守るという大きな責任を負う仕事だというところに惹かれたんです。製品の開発から製造まで関われるので入社以降どんどん仕事が楽しくなっています。失敗してもいい意味で責められることがない(笑)こんな社風があるから恐れずにいろいろなことに挑戦できるんです」

製造部第1加工部リーダー北原謙太
ものづくりのため、積極的に社員たちと会話を重ねていく
2022年1月稼働予定の新工場 柱のない構造で大型機械の搬入レイアウトがしやすい

激変する社会に必要とされる会社であり続けたい

これからの展望について、笠原に尋ねてみた。

「ポンプ車のポンプも今はエンジンが動力ですが、多分EVに変わっていくと思うんですよ。そのときにうちが作っている部品でどういうところに食い込んでいけるのか。実はすでに、ポンプやポンプ車本体の改良といった消防金具屋の枠を超えたご相談もいただいています。何を求められているのか、消防金具メーカーとしてできることはなにか、ということを常に考え、お客様のニーズに応えていきたいです」

取材・執筆:田中ゆきこ(尽日舎)
構成・編集:澤井理恵(ヤツメディア)
写真:五味貴志
動画:山田智大(やまかめ)

株式会社山田製作所

【設立】1946年

【所在地】〒399-0211長野県諏訪郡富士見町富士見1006

【連絡先】TEL:0266-78-7765 FAX:0266-78-7805

【代表者】代表取締役 笠原宏文

【従業員数】20名

【事業内容】消防防災資機材の製造・販売・開発

【webサイト】http://www.yamadass.co.jp

(記載の内容は全て取材時点の情報です)

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