地域の「頼みの綱」
特急品対応に強み
「吉田製作所以外に依頼するところはない」電話の向こうから、頭を抱える案件が飛び込んできた。週末の金曜日、顧客から吉田製作所にあった依頼は、難削材の部品加工。締め切りは3日後の月曜日だ。「今まで特急品対応のご依頼は、断ったことはない」と言うのは、代表取締役である吉田光。「絶対に完成できる」という自信は、これまで培ってきた経験と技術に基づく。その目は見落としがないように鋭く製品をとらえ、加工方法を分析、プログラムへと反映させていく。地域の加工所の「頼みの綱」を担う吉田製作所に迫る。
フル稼働で要求に応える
NC旋盤加工機やNC複合旋盤加工機を用いた金属部品加工を主軸とし、二次加工、製品検査などを行う吉田製作所。社長である吉田は21歳の若さで創業者の父から会社を引き継ぎ、28年間会社を率いてきた。
量産品においては1ヶ月に20種ほど、個数では5万点ほどを対応。吉田の家族を含めて6人の従業員で回す少数精鋭チームだ。半導体では基盤固定金具や電極部品、釣具部品ではリール内の糸を巻き取るハンドルのギア部品、自動車関連ではクラクションの電磁弁部品などを扱っている。
吉田を中心にプログラムや段取りが組まれ、従業員が二次加工や機械オペレーション、全数検査を含む検査を担当する。寸法トラブルはほぼ出ないと言う。従業員は、毎日決められた仕事をするのではなく、様々な工程を対応。ひとりひとりの経験の幅が広いため、その場で必要とされる業務を臨機応変に担当できる。
現場となる工場を見渡してみると、床には物が落ちておらず綺麗で、棚も整頓されている。基本の考え方となる「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5Sであるが、徹底してやりあげることは難しいもの。毎日の基本の積み重ねが無駄のない工程を実現し、少人数による量産を支えているのだ。
吉田は高校卒業後、吉田の父が経営していた頃からの顧客である精密部品加工企業で修行を積んだ。21歳の時に家業に戻り屋号を受け継ぎ、2000年4月に会社設立した。
工場には、NC複合旋盤や汎用フライス盤など10台を超える機械が並ぶ。すべて吉田が事業継承してから導入し、顧客の要求に応えるために更新を繰り返してきた。工場は家の敷地内にあり、隣には日常生活を送る自宅がある。
「基本的には土日も機械は稼働していることが多いので、休日でも落ち着かないですね。工場は家の敷地内にあるので、機械音がいやでも聞こえるんです(笑)。工場から響く加工音が止まったり、加工が終わる時間が近づいたりすると、すぐに駆けつけてしまいます」
頼りの吉田製作所
月に1回ほど飛び込んでくるのが、部品加工企業からの特急品の製造依頼。働き方改革が求められる昨今、顧客のなかには土日祝日は製造ラインを動かすことができない企業がある。そんな状況下から、吉田製作所が頼られる。
この記事の取材日は、たまたま特急品の依頼が飛び込んだ週末の土曜日だった。前日の金曜日の午後にあった依頼は「3日後の月曜日の朝に5000個を納品してほしい」というもの。なかなか厳しい発注に聞こえるが、吉田はなんなくこなそうとしている。すぐさま吉田が、NC旋盤機のプログラムを組むという。
取材中、吉田の控えめな姿が印象的だった。吉田は「顧客でも作っている部品なので、作り方は正直、聞けばなんとかなる。機械メーカーの進化により、今の切削機械は優れていて、なんでもできてしまう。私の技術が優れていると褒められるなんて、おこがましい」と話す。休日の特急品対応は、簡単な作業とは言えないだろう。吉田製作所が対応する特急品は、ほぼ新規の案件にあたる。にもかかわらず、これまで受けた案件は翌日納品や、プログラムに半日かかる製品でも受け入れ、しっかりと対応してきたのだ。
「近年は休日に対応する企業も少なくなっています。そんな中、私自身が休日にプログラミング、加工することで、特急品が入ってもすぐに対応できる強みがあります。顧客には、その対応力を評価されていると思います」
プログラムは独学で身に付けた。これまでの経験から、プログラム構築にかかる時間の見積が容易にできるため、スケジュール調整にも役立てられる。今回のプログラム構築は2時間と推定した。図面を見ながら、過去に扱った素材や形状の知識を頭の中で集結させて プログラムを組み立てる。工具や回転速度などの見当をつけながら、時には試行錯誤して適応させていく。
難削材の依頼も多い。今回の特急品も、難削材と言われるステンレスSUS304だった。鋼に比べて耐食性や耐熱性、耐酸化性に優れており、切粉が多く出る、刃が痛む、加工時間が長いなどの理由から加工しにくい材料だ。加工能率の低下を引き起こすため、一般的に特急品対応としては嫌われる素材となる。ほかにもSUS304よりも耐食性や耐孔食性を向上させた、半導体部品に使用されるSUS316の依頼も多い。
これまで吉田製作所は特急品対応を断ったことは無い。納期、品質、丁寧な対応が買われ、富士見町、諏訪市、山梨県の加工企業から「頼みの綱」となる存在になっている。
求められるゆえの事業拡大
常日頃から量産品が多く、工場にある機械は常に稼働している状態だが、その中で特急品は優先させている。生産性は悪くなるが、リーマンショック時に仕事が無い辛さをもう味わいたくないという思いから、特急品を断ることはない。
リーマンショック前の取引先は1社であったが、口コミで取引先は10社に増えた。当時売り上げは落ち込んだものの、この10年間で回復し、リーマンショック前に比べて約2倍に増加。機械も増えて、家族以外の従業員も加わった。現在は、社長より年上のベテラン勢が力を発揮している。
「顧客とのお付き合いが広がっていくと、設備や人材に投資することが必要となりますので、自然と経営規模が大きくなりました。仕事をいただくからには、できる限りお客さんの期待に応えたいです。今後、事業継承や人材育成、工場移転などの話題も出てくるかもしれませんが、落ち着いて考えたいですね」
会社を大きくしたいという気持ちよりも、顧客への感謝から期待に応えたいとする謙虚な姿勢が、結果的に会社を大きくしてきたのかもしれない。
事業規模は小さいながらも、多数の工場から頼られる、強い存在感を放つ吉田製作所。忙しく回る業務のなかで忘れがちな「感謝」の気持ちを心に留めて、要望に応えることによって、技術力は高まり続ける。仕事に対する、真摯な姿勢を見ることができた。
取材・執筆:竹中唯
構成・編集:栗原大介(ヤツメディア)
写真:五味貴志
動画:山田智大(やまかめ)
有限会社吉田製作所
【設立】2000年
【所在地】〒399-0211 長野県諏訪郡富士見町富士見9892
【連絡先】TEL:0266-62-626
【代表者】代表取締役社長 吉田光
【従業員数】6名
【事業内容】NC旋盤、NC複合旋盤を用いたバー材からの切削加工。鍛造、鋳造品の二次加工、各種二次加工、追加工、修正加工
(記載の内容は全て取材時点の情報です)
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