企業イメージ:株式会社なかみつ

5軸加工が
切り拓く未来

株式会社なかみつ

まさに起死回生の一手だった。マシニングセンターの中でも近年高い注目を集めている5軸加工機を導入した瞬間だ。その性能の高さは価格面でもプログラミングの難解さでも明らか。その壁を乗り越えるために腹を括ったことが、若き社長の生き方も考え方も変えた。精密紀行の取材でも「加工技術はなかみつさんがピカイチ」という言葉を何度か耳にした。弱冠39歳の中村光貴社長の必死の努力でたどり着いた経験の蓄積が、5軸加工機の可能性をさらに広げ、新たなステージを目指している。

「できないものはない」と言い切る自信

「弊社は5軸加工を始めて10数年になります。その間に蓄積したノウハウには自信があり、私が営業にうかがう際には、『できないものはありません』とお伝えしています。素材もアルミ、チタン、ステンレス、鉄などなんでも削れます。3軸加工機ではワーク(素材の立方体)の片面ずつしか加工ができないため、加工する面ごとにワークを取り付ける「段取り替え」をしなければなりませんし、治具が必要な場合は新たにつくったりもしました。しかし5軸では1回の段取りで多面加工ができるので、無駄な時間やコストの削減が可能です。何より段取り替えが不要なので精度が断然違ってくる。5軸の機械本体が高価なのでそのぶん製品価格は上がることもありますが、治具や段取り替えの手間が省ける場合には3軸よりも安価に仕上げることも可能になりました」

取材を行った2021年、社長の中村光貴は社長就任からまだ半年足らずだったが、謙虚で丁寧な語り口ながらも、自信に裏付けられた力強さが伝わってきた。

代表取締役社長 中村光貴

5軸加工とは、マシニングセンターでの3軸(X・Y・Z)に、回転と傾斜という2軸をプラスした切削加工のこと。立体の自由な曲面加工を実現し、3軸加工では必要なワークの取り替えがなくなったために生産性と加工精度を飛躍的に上げることができる。しかし、その一方で、作業者には数値制御やCAD/CAMの高い能力が求められるのだ。中村が言う「蓄積したノウハウ」は、その能力を指している。

ゼロから積み上げたからこそ今がある

前社長、現会長の中村光守

祖父の会社から父・光守が独立してマシニングセンターの部品をつくってきた、株式会社なかみつ。ところが2008年のリーマンショックにより、それまでの仕事はほぼ失われてしまった。当時の社長だった光守と右腕として会社を支えていた中村は悩み、何度も話し合った末に、5軸マシニングセンターの導入を決めた。
「このままの部品加工、それまでの設備だけでできる製品をつくっていても、さらなる価格破壊も予想されている。ならば新しいことにチャレンジしよう」という思いだった。ハイグレードな機械ゆえ中小企業では金銭的な負担が大きすぎる決断でもあり、実際にまだまだ身近には普及もしていなかった。

5軸加工機

「それまで弊社は平面的な加工を中心に請け負っていました。ですから、いざ導入したときには機械の操作の仕方がわからず、動かすことさえできなかったんです。CAD/CAMをいじるくらいの経験は私にもあったのですが、切削方法の指令をプログラムで与えるところからよくわからない。5軸は回転テーブルを傾けて作業できるのが大きな特徴ですが、その傾きをどうプログラムするのかもわからない。そもそも機械によってプログラム言語が決まっているので、その言語をゼロから学ぶことから始めて、ようやく機械を動かすところまでたどり着くことができました」

しかし、いくら漠然と機械を動かし、加工を試してみるだけでは技術は身につかなかった。「実践あるのみ!!」と、5軸加工を必要とする仕事を自ら探し始めた。

「たまたま古くから付き合いのある取引先の方から、立方体に斜めの穴がいっぱい開いている製品の相談をいただきまして『できます!』と飛びついたんです。そうは言ったものの、どこから手をつけていいかわからず、CAD/CAMや機械のメーカーさんにひっきりなしに連絡を入れている状態でしたね。機械にどんな指示を与えればいいのか、どんな工具でどんなことをすればこの加工形状ができるのか、どうすれば精度よく加工できるのか……。失敗を繰り返しながら、工具もたくさん無駄にしながら学んでいきました。全部一人で組み上げていったので苦労しましたし、時間もかかりました。お客様にはご迷惑をおかけしましたが、仕事が少なかった時期だったからこそ実地でじっくり研究し、しっかり基礎を固めることができたんです」

5軸導入が仕事の分野を広げた

なかみつの経営を軌道に乗せるきっかけになった製品を見せてもらった。それは骨折した患部に埋め込み、骨接ぎをするためのチタン製プレート。サイズは大人の手のひらで包めるくらい。楕円の薄い板は骨を包むように湾曲し、さまざまな角度から大小の穴がいくつも開いている。この骨接ぎプレートが評価を得て、発注した医療器具メーカーとの取り引きがその後も続いていく。

現在、なかみつでは5軸加工のマシニングセンター3台が稼働している。

「刃物が横から出てきて工具を回して削るタイプが1台、縦から刃物を落としてテーブルがぐるぐる回りながら削っていくタイプが1台。もう1台は航空宇宙関係の部品に対応するために購入した、精度がかなり高い最新鋭の機械です。ありがたいことに5軸加工機を導入したことで相談も増えて、新規のお客様はもちろん、今までのお客様の中でも受注の幅が広がりました」

かつては限られた分野にとどまっていた仕事も、医療器具を中心に、航空宇宙、輸送機器、光学部品など多岐に広がり、試作から量産まで幅広く対応している。一部に依存していた会社の売上体質も変化したことで、景気などの波にも大きく左右されない危機管理につながっている。

CAD/CAMの作業をする中村

中村自身、幅広い仕事で得た経験がさらなる蓄積になり、今では図面を見れば立体の形状がすぐにイメージでき、加工方法も選択できるようになったという。
実際に同社が行う工程は、図面をもとに3DCADによるプログラムをつくり、必要な部材を依頼し、5軸加工機にワークを乗せ、稼働させて製品を完成させるというもの。最終段階で三次元測定機による検品を経て出荷となるが、工具で対応できない部分は手作業で仕上げることもある。

測定器で検品する中村

培ったノウハウを若手に伝え、自らは営業へ軸足を移す

中村に改めて、なかみつのPRポイントを聞いた。
「一番は経験です。5軸加工機はいろんな方向から加工するわけですが、どうやって精度を出すか、どうすれば歪まないか、それは金属によってもアプローチの仕方によっても違ってきます。その見極めは多くの経験値がないと習得できません。年月をかけて積んだ経験こそ、負けない強みです。これからの時代はAIの導入で自動化が進んでいくでしょう。ただ、それでも人間の頭で考えることでしか対応できない領域があります。だからこそAI時代が来ても、速さでは負けるかもしれませんが、精度では負けない自信があります」

まだ40歳手前の中村だが、そのノウハウを若い社員に惜しげもなく渡そうとしている。

「製造業に飛び込んでくれる若い人はなかなか少ないのが現状ですが、有望な若いスタッフが入ってくれたんです。彼は飲み込みも早く、今は機械操作や管理はすべて任せられるようになっています。これからはプログラムの構築を覚えてもらおうと思っています。5軸加工は若いうちに取り掛からないと厳しい世界なんです。紙の平面図を見ながら頭の中で立体にし、それをぐるぐる回しながらどう加工していくかをイメージしなければなりませんので、頭の柔らかい若い人の方が向いているんです。図面を見てもまったく立体をイメージできないという人も少なくない。そこがものづくりが好きになれるか嫌いになるかの分かれ道。彼はそこはすでに乗り越えてくれていますから」

若手スタッフの井出にアドバイスをする中村

そうやって日々、若いスタッフが幅広く仕事を担ってくれることで、中村は新たな営業に集中することが可能になる。

「これから、ものづくりの環境はものすごい勢いで変わっていくと思います。誰にでもできる仕事は減っていくでしょう。ほかの人が嫌がるような、誰もやらないような領域に積極的にチャレンジしていくことが我々の生き残る道だと思うんです。それはつまり各分野のトップの仕事、今よりもさらにワンランク上の難しい仕事をこなせるような技術を身につけていくしかありません」

高みを目指すからこそ同世代の切磋琢磨が必要

これから富士見町の精密工業は現世代から次世代の若者に受け継がれていくことだろう。その先陣を切るように未来を担い始めた中村は、富士見町の環境についてこう語る。

「会社というのは他のいろいろな会社と関わりを持つことで成長していくものです。多種多様な会社とつながっていくことが欠かせないと思っています。富士見町の精密工業にまつわる20代、30代の横のつながりや情報共有はかなり進んでいますし、仕事のやりとりも実現しています。お互いに信頼し、刺激し合いながら切磋琢磨して、海外に出ても戦える技術力、管理体制をしっかり構築していけるように頑張ろうと思います」

株式会社なかみつ

前社長でもある光守会長を加え、現在社員は5名の株式会社なかみつ。もう少し社員を増やしたいとは考えているが、小規模だからこそ、風通しの良い会社にしていきたいと言う。
「従業員の皆さんとは上下関係ではなくて横の連携でやっていきたいです。みんなで考えて会社を良くしていきたいので、思ったことはガンガン言ってくださいと伝えています。給料を上げたければ、どうしらいいかをみんなで考えていく。そういう理念で新人の募集しています」
なんだか中村の人柄が伺えて、微笑ましくなってきた。

取材・執筆:今井浩一
構成・編集:栗原大介(ヤツメディア)
写真:山田智大(やまかめ)
動画:赤錆健二(Omusubi factory)

株式会社なかみつ

【設立】1991年
【所在地】〒399-0214 長野県諏訪郡富士見町落合9433-1
【連絡先】TEL : 0266-62-8888 FAX : 0266-62-6938
【代表者】代表取締役社長 中村光貴
【従業員数】5名
【事業内容】5軸加工を中心としたマシニング加工
【主力製品】航空宇宙(人工衛星搭載用装置ハウジング)、医療器具(各種整形外科用インプラント製品試作及び量産対応/整形外科用手術器具)、輸送機器(特急電車用制御装置ハウジング/自動車部品試作)、光学部品(光学ユニット試作部品)など
【設備情報】5軸マシニングセンター=D500(縦型/牧野フライス製作所/1台)、NMV5000 (縦型/DMG森精機/1台)、HG-400 VWC 40APC(横型/日立精機/1台) 、3軸マシニングセンター=MC-5V(縦型/ワシノエンジニアリング/2台)、WMC-4(縦型/ワシノエンジニアリング/3台)、HG-500 2APC(横型/日立精機/1台)、HC-400 2APC(横型/日立精機/1台)、その他加工機=TECHSTER D3(CNC平面研削盤/テクノワシノ/1台)、TW530(ワイヤーカット/アマダ/1台)、AD-1(ワイヤーカット/アマダ/1台)、汎用フライス盤(ワシノエンジニアリング、アマダ/2台)、ボール盤(4台)、CAD/CAM=Speedy mill next (3DCAD/CAM/同時5軸加工対応)、ナスカ・プロ2.5D(2DCAD/CAM/2.5軸加工対応)、三次元測定機=XYZAX SP600A(東京精密/1台) 、画像ユニット付測定顕微鏡=MF-1020TH(Mitutoyo/1台)、医療用超音波洗浄機=VS SONIC(サクラ精機)、ナスカ・プロ2.5D2DCAD/CAM
【webサイト】https://nakamitsu.co.jp

(記載の内容は全て取材時点の情報です)

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