企業イメージ:株式会社エムティードライブ

「コア」を担う誇り
試作巻線を極める

株式会社エムティードライブ

電気で動くどんな機械にもなくてはならない「巻線」。ここに電流を流し磁界を発生させることで、 モーターを回したり制御したりといったコントロールが可能になる。 テクノロジーの進化とともに、求められる巻線の技術も高まるなか、大手からベンチャーまで幅広い企業から「頼られる存在」として依頼が集まるのがエムティードライブだ。小ロットの試作に特化し、量産へとつなげる巻線製作からモーターのアッセンブリーまでを担って20年。2023年には田中健太郎が二代目社長に就任、次の時代が始まろうとしている。

「難しいものはここへ」。実績が名刺代わりに

「せっかくの撮影なのに、映せるものが少なくてすみません」 まだ新しさを感じる第2工場の会議室で新社長の田中はそう話しはじめた。「私たちが手がけているのは、各メーカーの量産ラインに乗る前の試作品ばかり。特許にかかわる企業秘密のかたまりなので、メディアに出すことができないんです」

「試作巻線のエキスパート」と自ら名乗るとおり、エムティードライブが専らとするのは1、2個から10個程度までの試作品製作が中心。高度な巻線技術を持つだけでなく、コアのワイヤー放電加工からモーターのアッセンブリーまで一貫して対応ができることから、「構想をかたちにするならここ」 と、大手企業からベンチャーまで取引先は300社以上にのぼる。

代表取締役社長・田中健太郎

電気があるところになくてはならない「巻線(コイル)」は、銅線を巻き上げてつくるシンプルな構造ながら、使用する銅線の種類や巻き方、密度等の緻密な調整によってそれぞれの機械が求める性能の質を左右する。

「100年以上前、モーターという技術ができたときから巻線は存在しています。一方で、たとえば近年のドローンにおける燃費向上や切り替え精度などの革新は、コア材や絶縁材、巻線の進化がこれをかなえていると言って良い。しかも私たちの場合、図面から1個を完成させれば良いのではなく、その先の量産に乗せられる技術を手渡していくのが仕事の基本です。電動機械の原点であり奥深い世界だからこそ、努力し続ければまだまだご飯が食べていける業界だと思っています」

創業は2003年。初代・代表取締役の武居満弘は町内企業から独立を果たし、名刺と菓子折りを携えた飛び込み営業で自動車・医療・家電業界へと取引先を徐々に拡大していった。富士見町の小さな作業場を拠点に、5名から始まった事業が飛躍の時を迎えたのは、それから数年後。ある自動車メーカーとの出会いがきっかけだった。

創業から2年後に中途採用で同社に入社していた田中は当時をこう振り返る。

「専門商社を介して依頼されたのは、大手自動車メーカーのハイブリッド車用モーターでした。うちで巻いた巻線を乗せた車で、お客様が工場からわざわざ富士見まで来てくださったんです。あのときの感動は忘れられません」

この成功が足掛かりとなり、受注は一気に増加。「難易度の高い巻線はここへ」との評判が静かに広がった。「ここ数年は営業活動を行うことなく、問い合わせにお応えしていくと、スケジュールが埋まっていく状態です。このご時世に恥ずかしいことですが、まだ自社ホームページも持っていないんです。作った製品が名刺代わりとなってくれているとも言えます。製品一つひとつが自信作ですし、私たちの誇りになっているんです」

異業種からの転身。熟練工からの学びが財産

2023年2月に二代目社長に就任したばかりの田中は、意外な経歴の持ち主だ。なんと前職は県内のブライダル業界に勤務していたという。

「現会長(初代代表取締役・武居満弘)の義理の兄にあたる人が、私の上司だったんです。彼が転職するタイミングで、私も一緒にこの会社についてきた、それがはじまりです」
入社当時は「社長の話していることが全くわからず、何語を話しているかわからないほどだった」と話す田中だが、臆することなく話を聞き、手を動かし、先入観なく技術を身につけていくことができたと田中は考えている。

社長の田中自らも製作に関わる

「卒業した専門学校もまったく違う業界でしたし、右も左もわからない。でも不思議と『どうやったらできるんだろう?』と、好奇心がくすぐられました。だから夢中になって営業力も技術力も磨いてこられたのだと思います」

加えて前社長の指導のもと、営業と製造の双方を一度に学べたことは、田中の今に大きく役立っているという。

「前社長からは、納品しておしまい、ではなくて、納品をしてからその先までお客様といっしょに製品づくりに関わっていく大切さを学びました。自社の製品が、お客様にわたったあと、まだ見ぬこれからの製造現場で次にどう活かせるか、ということまで考えることができました。その積み重ねの中で、自分で工程を想定し見積もりを出し、この会社で自分にできることが広がったと感じました。社長のモットーは、『業界のコンビニであれ』。なんでも対応できて、身近で便利が理想だと教えられました。ときには求められる以上の短納期でニーズに応えていく姿勢が自分に染み付いていると感じます」

入社した当時は取引先で60代、70代の熟練工が活躍していた時代。現場に足を運ぶなかで、 彼らからも多くの知見を得ていったという。「みなさん『見て学んでいけ』とあたたかく受け入れてくれ、学ばせてくれました。その経験はかけがえのない財産です」

2023年春、ワイヤー加工放電機「CUT P 550 Pro」2台を導入。 通電性に優れたマシンは作業効率に大きく貢献する

答えのないパズルを解く、その喜びを社内に広げていく

「見積もりの依頼内容を見ているだけで、テクノロジーのトレンドがわかる」というほど、いまも全国各地からひきもきらず依頼が集まっているエムティードライブ。田中は経営の舵取りを行いながら、変わらず営業に、製造にと奔走する毎日だ。

「最近のしびれる事例でいうと、某大学の卒業生によるベンチャー企業の案件でしょうか。卒業後、それぞれが一度大手メーカーで学んだのちに再集合して立ち上げた会社なんです。だから求める性能・精度がとにかく高くてエグい(笑)。理論上はできても実現不可能な図面を出されることもあるので、そこは実際に現場に立ち会ってもらうことで互いに学びを深めていきました。そうしたやりとりを経て実装できたときは喜びましたね。

技術の次世代を担うベンチャー世代にとっては、私は少し年齢が近いので話しやすい面があると思います。私が社長になった利点の一つかもしれません」

製造における田中のモットーは、「機械に巻かれているのはつまらない、あくまでも人間が主導権を握って『巻いていく』」こと。以前なら銅線の密度が60%程度でも求める性能を出すことができたところ、近年求められるのはそれ以上だ。基本となる技術が日々高まっている、そんな時代に「越えられないように見える壁をどうしたら越えられるか」、その葛藤を楽しめる人材を育成していくのが田中の次の目標だ。

「少しずつ調整を繰り返して、できなかったことができたときの喜びに、この仕事の醍醐味がある。そのことを共有できる人材を社内に広げていきたい。実務面では、巻線機に設置する治具も自社で一貫生産できる体制を整えていくことが中期的目標です。

順調と言いながらも、コロナの流行期には受注が大幅に減った期間もありました。そのときの危機感を忘れず、ますます技術と対応力で他の追随を許さない存在になっていきたいと考えています」

取材・執筆:玉木美企子
構成・編集:澤井理恵(ヤツメディア)
動画・写真:山田智大(やまかめ)

株式会社エムティードライブ

【設立】2003年

【住所】〒399-0211 長野県諏訪郡富士見町富士見11734-35 

【連絡先】0266-62-8522
【代表者】代表取締役社長 田中健太郎

【従業員数】24名
【事業内容】試作用モーター製造

【主力製品】自動車部品、家電部品、医療機器部品の試作製作

(記載の内容は全て取材時点の情報です)

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