企業イメージ:有限会社諏訪宝飾工芸

最高の石を最高の技で。
原石の力に技術で応える

有限会社諏訪宝飾工芸

磨く、カットする、組み合わせる。人の手によって輝きを放つ宝飾研磨・加工の世界は長野の隣県・山梨県で水晶工芸を発端に、古くは江戸時代から発展を続けてきた。移ろう時代の中で拡大と縮小の山と谷を幾度も繰り返し、高い技術とアイデアを武器に生き残ってきた精鋭企業が、それぞれの得意分野で歴史を今に受け継いでいる。富士見町に工房を構える諏訪宝飾工芸は、そんな山梨の宝飾店からの石加工依頼に応えながら、「数珠」のデザイン・製造という独自の地位を確立してきた。近年は後継者も迎え入れ、新たな販路開拓とともに石加工の可能性を追求し続けている。

良い加工はまず、良い石を仕入れることか

富士見町の南端・落合地区に拠点を構える諏訪宝飾工芸。2階建ての一般住宅をまるごと使用した工房を訪ねると、ずらりと並んだ石の量に驚かされた。翡翠にラピスラズリ、ピンクガーネットに水晶……。その多くがまだ原石のまま袋に入れられ、静かに世に出る時を待っているかのようだ。

「石加工は特殊な世界です。技術だけでなく良い石を仕入れる目やコネクションも必要になりますから。一度逃してしまえば、同じ石には二度と出会えない。作りたいと思ってピンときたものは売るあてがなくてもまず買っておきます。私の仕入れのスタンスです。

そう話すのは、代表取締役の水野元二。義父が創業した同社を受け継ぎ、1998年には一級宝石研磨士資格を取得。2010年には山梨県独自の宝石加工・宝飾デザイン・宝飾加工の認定制度「プレジュエリーマスター」の資格を取得する実力の持ち主として、天然石や宝石の研磨・加工・販売からアクセサリーデザインまで幅広く手がけてきた。

代表取締役 水野元二

同社設立の発端は昭和40年代、水野の叔父が東京ではじめた宝石店だった。

「義父は実家をでて農家となっていましたが、当時身体を壊して農作業ができなくなっていました。そこで、叔父から、『下請けをやってくれ』と頼まれたのをきっかけに、加工専門として会社を創業しました」

数珠制作を柱に「作り手も、心動くものを」

石加工とひとくちに言っても、造形を掘り出す彫刻、宝石に輝きを与えるカット石などジャンルが分かれるが、水野が得意とするのは「丸玉加工」。この丸玉の連なりで生み出されるものこそ、諏訪宝飾工芸の主力商品=数珠だ。

日本ではなじみの深い、仏教の法具である数珠の素材は多種多彩で、大きく天然木製と天然石製のものに分けられる。水晶やガーネットでできた水野の手による数珠は、それぞれの石ごとの光を放ち、素人でもひと目で色、艶、光沢がわかる、そんな存在感を放っていた。

「触ってみてください」、そう言われて慎重に手に乗せると、ずっしりとした重さとともに、手のひらをすべるようななめらかさを感じる。京都や大阪の専門業者と提携しているという組み紐も、石の光や色を邪魔しない色合いが選ばれ、調和をみせている。

「数珠玉は真球のイメージが強いけれど、宗派によって玉の形も数も異なります。そろばん玉の形は修験者のもの、天台宗は平玉、『みかん玉』と呼ばれる真球を扁平にしたようなかたちのものもあります」

水野は受注によるオーダーメイドで制作を行うだけでなく、それぞれの石にインスパイアされ、ときに自らのイメージで新たなデザイン制作を行うこともあるという。

「新作ができたら、長い付き合いの問屋に見せるんです。すぐに販売に結びつかなくても、新しい提案を続けることで『諏訪宝飾では面白いものに出会える』、そう思っていただくことで、関係性が深まっていきます。それになにより、自分自身が楽しいじゃないですか」

「子どものころの工作と同じ。完成したら嬉しい、褒められればなお嬉しい」と、つくる喜びを生き生きと語る水野。一本数千円、ときには数百万円をくだらない品にもなる世界で水野がこだわるのは「自らが心動くものをつくる」こと。目には見えないその想いこそ、人の心を動かすというのが水野の信念だ。

もちろん納得のいくものづくりをかなえるためには、美しさを細部まで際立たせる加工の手間が欠かせない。

「きちんと真球をつくることは基本中の基本。そこから表面だけでなく、糸を通す穴の中まで美しく磨きあげていくことがうちのこだわりです。そうすることで数珠全体の光り方が変わってくる。磨きではどこにも負けない。このこだわりが、うちが続いてきた理由だと思っています」

ビルマ翡翠(左)
ビルマ産(現ミャンマー産)の翡翠 糸魚川産翡翠(中央)
白地にグリーンが入った色合いが特徴 糸魚川産翡翠のみかん玉加工(右)
(撮影:編集・澤井)
色が原石に滲みないよう鉛筆で繭玉の形が描かれた石取りのための線引きされた糸魚川産の翡翠。
内部の色合いが見えない翡翠はセンスと技術の見せ所。線引き工程は、石の見方が合っているかが試される大事な工程のひとつ(撮影:編集・澤井)
数珠の原料となる天然石。ここから削りと磨きを重ね、使用する際の大きさは1/5ほどになる
加工の工程順に並べたようす。左から原石を切り出した四角い石、順に削りを施し、最終的に右端の球体へと形づくる

次世代へ技を伝え、新たな販路にも挑戦

今年で創業55年。品質へのこだわりは業界に静かに浸透し、仏具店から百貨店まで、専門問屋を通して各地で販売が展開されている。

6年前からは後継者として息子が加わり、三人体制に。これまでのように自らの制作を極めるだけでなく、身につけてきた技術を次世代へ伝えるという新たな仕事が加わった。

「息子たちにはとにかく『正確さを大切に』と、丸球の削り方から徹底して教えてきました。仕上げたいサイズは同じでも、最初の石は二つと同じものがない。だからこそどこまで削るか、どこで止めるか、『脳と手をいっしょにする』ような感覚の鋭さを少しずつでも養うことが大切なんです」

息子の学。現在は主に丸玉・穴加工を担う
社長自ら手作業で研磨していく工程のようす

一方、息子の参加をきっかけに、オンラインショップやふるさと納税という独自の新たな販路開拓にも乗り出した。

「ふるさと納税は、お声がけいただいたことを契機に、『勾玉』を出しています。『売れるのかな?』と半信半疑でしたが、少しずつ売れていて手応えを感じます。

息子夫婦は数珠だけでなく、装身具や原石の販売も手がけていきたいようなので、(カット)少しずつ実験的に始めているところです。これから二人が楽しみながら仕事を続けられるようにと、石と貴金属加工を組み合わせた新商品の開発も進めています」

ふるさと納税の返礼品にもなっている勾玉

「生き残っていくために必要なのは、オンリーワンであること」。

水野が最後に語った言葉は目新しい表現ではない。けれど、流行り廃りも浮き沈みも激しい宝飾業界を50年以上生き抜いてきた諏訪宝飾工芸だからこそ伝わる、深い実感と自信がにじんでいるように感じた。

「最高の石を、最高の技で磨いていく。その基本を大切に、息子にも自分の心動くことに取り組んでいってほしい。石は正直です。技が良ければ、どこへ出してもちゃんと光ってくれますから」

取材・執筆:玉木美企子
構成・編集:澤井理恵(ヤツメディア)
写真:ミズカイケイコ
動画:山田智大(やまかめ)

有限会社諏訪宝飾工芸

【設立】1968年

【住所】長野県諏訪郡富士見町落合1849

【連絡先】0266-64-2401

【代表者】代表取締役 水野元二

【事業内容】宝石/研磨・加工・販売、宝石/アクセサリーデザイン研究、念珠/加工研磨販売

(記載の内容は全て取材時点の情報です)

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