企業イメージ:八ヶ岳創響

脳内から癒される
存在が消えるスピーカー

八ヶ岳創響

スピーカー作家の数だけ、理想の音へのこだわりがあり、その音を実現するためにさまざまな工夫を重ねている。オーダーメイド専門の八ヶ岳創響のスピーカー・デザイナー、戸倉敬もそうだ。“響きを創る”という屋号は、「コンサートホールで音楽を聴いている環境」を自宅でつくり出すことを目指した想いが込められている。戸倉の作るスピーカーから流れる音は、空気の中に溶け込んでいるように感じる。それはまるでスピーカーの姿が消えたような不思議さである。

オーディオファンといっても音楽を愛好する人もいれば、音楽を聴く機材にこだわる人、機材を自作する人などさまざまだ。いい音楽を聴くために大事なのはプレーヤー、アンプ、スピーカーと言われ、お金をかける割合がもっとも大きいのはスピーカーなのだそう。左右のスピーカーを底辺とする正三角形の頂点は “スイートスポット”と言われ、あたかも目の前でシンガーが歌っているように感じられるポイントだ。しかしその位置からわずかでもずれると、左右の音のバランスは崩れてしまう。音質にこだわるあまり、無意識のうちに頭を固定してしまい、本来はリラックスして楽しむはずの音楽なのに、聴き続けることで逆に疲れてしまうという矛盾をはらんでいた。しかし、八ヶ岳創響代表の戸倉が生み出した『2aRs2(ツーエーアールエスツー)=Active Acoustic Radiation Speaker System』は、その問題を解決、癒しの空間を生み出すことができるスピーカーなのだ。

2aRs2『Active Acoustic Radiation Speaker System』のオーディオラインナップ

きっかけはロケットストーブ?!

「私がこちらに移り住んでからもう25年以上になります。ボーイスカウトのリーダーをやっていたことから、入笠山のロッヂでよく合宿をしていました。それでこの地域がとても好きになりました。趣味である旅の拠点として、この地に別荘を建てたほうが効率がいいんじゃないかと(笑)。もう一つ、原発を含めた災害が起きたときのことを考え、いろいろ調べると、富士見は非常に安全な地域だったんですね」

八ヶ岳創響代表の戸倉敬

それまで戸倉は大手カメラメーカー、キヤノンで開発技術戦略、ソフトウエア開発、DNA装置商品開発に従事。キャリアの後半は社員相談室にてカウンセリングを担当した。退職後は、前述のような理由で富士見町に移住し、こちらでもカウンセリングを生業としていた。そのころ趣味で始めたのがロケットストーブづくりだった。

「私は物を手づくりするのが好きでした。ロケットストーブに焼べる薪として、カラマツの丸太をトラックいっぱい買ってきたんです。3年かけてやっと納得いくストーブをつくることができましたが、庭を眺めたときに、大きな丸太が大量に余ってしまっていて(笑)」

作業場の外に積み上げられたカラマツ。スピーカー作りを思いついた瞬間も同じ風景だったはず

音質から、音を聴く環境づくりへ発想転換

ここで古巣キヤノンと結びつく。実は戸倉の先輩が「これからは、レンズだけではなく音響にもジャンルを広げていかなければ」と、イギリスにキヤノンのオーディオ研究所を設立していた。そこで開発されたスピーカー、『ワイド・イメージング・ステレオ(WIS)』はフランスで販売された。残念ながら日本では販売されなかったWISだが、実はキヤノンのレンズ光学の粋を応用した製品で、それまでのスピーカーとは発想が違っていた。

戸倉の先輩が開発したキヤノン製『ワイド・イメージング・ステレオ(WIS)』

八ヶ岳創響の視聴室の片隅に置かれているWISは、ヘルメットのような形をしている。

「オーディオの歴史は蓄音機のころから一貫して良い音を求めることなんです。しかし良い音を追及することで、スイートスポットが狭くなり、特に首や肩が凝って疲れてしまう。ところが、このWISは長時間聴いていてもまったく疲れないんです。その理由は、音の反射を利用し、スイートスポットを広げたからです。キヤノンはレンズの設計をやっていますが、レンズの中を光がどのように通るか計算します。実は音も光と同じような性質を持っています。低音の場合、音は拡散しますが、人間の耳に届きやすい16~2キロヘルツという音域は直進して、反射する。WISはその周波数帯の音の反射を計算し、スイートスポットを広げてリラックスして音楽を楽しめるようにしようと考えたんです。しかしこの斬新な発想と技術は、当時のオーディオ市場の方向性とは異なりオーディオマニアには人気がでなかったんです。それから約40年経ち、手持ちのWISと最新のスピーカーを比較すると、低音に不満を感じるようになりました。

そんなとき、庭にある丸太を使ってWISへの不満を解消し、さらにリアルな音を創り出す新しいスピーカーを作れないかと思ったわけです」

当時の先輩に相談したところ、WISが採用した音響システムは特許が切れていた。ここから本格的に戸倉のスピーカーづくりが始まった。

作業スペースにて/制作工程はすべて手作業。1ミリ以下の調整が必要になる
上についているのが三角錐の音響コア。
音の信号を振動させる網目のユニット部分から発せられる音が斜め上方、四方に広がっていく。
ロゴの天使のマークはご自身でデザインしたもの

戸倉のスピーカー『2aRs2』は富士見産のカラマツを使用している。カラマツは比較的安価ではあるものの、節が多く、柔らかいために削りにくく、傷つきやすい。家具には向かない素材と言われているが、ギターやヴァイオリンなどの表板に針葉樹が使われ塗装されていることなどにヒントを得た戸倉は、カラマツでもイケると確信する。年輪が細かく、ヤニの少ないより良質な素材を探し求めるが、木工は素人だったため、乾燥させ、保存するにも腐心したという。旋盤など加工のための道具も徐々に増えていった。

制作途中の製品。ラップをしっかり巻いて保存する

目標は音楽の殿堂、サントリーホール

『2aRs2』には、従来型のスピーカーにはない、戸倉独自の工夫がいくつかある。まずは、丸太の面影を残したユニークな形だ。WISが下向きにスピーカーユニットが設置されているのに対し、上を向いているのも斬新だ。

「従来型のスピーカーは、音の信号を振動させるパーツであるスピーカーユニットがキャビネット(箱)の前面の薄い板(バッフル)に取り付けられています。音は前方に発せられますが、スピーカーユニットの中心から出る音が一番大きく、端ほど小さくなってしまいます。しかし『2aRs2』は、スピーカーユニットを上向きに取りつけているため、そこから出た音は三角錐型の音響コアに反射して水平から上方向に、そして大きく左右に広がっていくようになっています」     

コンサートホールで音楽を聴いているかのような環境をつくり出すことを目指した『2aRs2』の解説のために、戸倉はクラシックホールの殿堂、サントリーホールの客席図を持ち出した。

「家庭で聴く場合、スピーカーと聴く人の間にラックとかテーブルとかいろんな物がありますよね。それらに音が乱反射すると音が乱れる。ちなみにコンサートホールは音が天井や横の壁から反射して私たちのもとに音が届きます。でも床からの反射はありません。それは席に人間が座っていて、音が吸収されてしまっているから。そのため視覚効果もあってステージから音が聞こえるように感じるんです。WISでは音は水平方向と斜め下方向へ出ています。下へ出る音は乱反射してしまうので、『2aRs2』ではスピーカーユニットの向きを逆にして、音を上方や左右に発するようにし、下の音をカットしています。壁からの反射を利用しているからこそ音が立体的に聴こえ、スピーカーの存在を感じさせない環境がつくれるんです。以前、諏訪圏工業メッセで諏訪交響楽団の方たちが八ヶ岳創響のブースで音楽を聴いていかれました。その際にコンサートホールと同じように聞こえると言っていただけました。私の考えは間違っていなかったと確信しました」

そしてもう一つの大きな特徴は同軸2WAYを採用していること。

「従来型のスピーカーは、基本的には低音域を受け持っているウーファー、高音域を受け持っているツイーター、2つのスピーカーユニットを取り付けています。音というのは広い音域でつながっているものなんですが、ウーファーとツイーターに分けて、それぞれの周波数を割り当ています。そうして低音から高音までの広い領域をカバーしています。しかし二つのスピーカーを使うと音の纏まりが悪くなります。

でも『2aRs2』は、ウーファーとツイーターが同じスピーカーユニットの中にあります。同軸2WAYを用いることでこの問題を解消しているのです」

『2aRs2』の優位性を語る戸倉

お客様の意見を取り入れたオーダーメイドへのこだわり

戸倉は当初、自分の趣味としてスピーカーをつくっていたため、販売のことなどまるで考えていなかった。しかし友人の漆職人から漆を塗ったものをつくってほしいと言われたり、知人の社長から鉄で作ってみたいと言われるなど、次第に購入を希望する人が増えてきたことから、2018年10月、ホームページを公開して販売を開始した。購入者の好みを最優先するため、まずは試聴室でじっくり音を聞いてもらう。それから、視聴環境の希望や用途を聞いてから製作にとりかかる。完全オーダーメイドは販売当初からこだわる戸倉のスタイルだ。

八ヶ岳をイメージした『2aRs2』のロゴ

インタビューの際「太い丸太を切ってくり抜くのはもう大変ですよ」と苦笑いする戸倉だが、これから、まだまだいろんな個性を秘めたスピーカーを生み出していくに違いない。     

「現在は癒しを求める時代になって、柔らかい音が好まれている。だからこそ私のスピーカーを求めてくださる方が増えているのだと思います」

オーディオファンは一人で音を楽しむ人が多い。しかしスイートスポットが広い『2aRs2』は家族や仲間と一緒に、同じクオリティで音を楽しむことができる。きっとその部屋に広がる癒しの音には、富士見町の息吹が宿っている。

(左)【IZMAYモデル】価格:¥89,800(ペア)+送料
(中央)【Marineモデル】価格:¥399,800(ペア)+送料
(右)【工芸モデル】価格:¥399,800(ペア)+送料

取材・執筆:今井浩一
構成・編集:澤井理恵(ヤツメディア)
写真:ミズカイケイコ
動画:山田智大(やまかめ)

八ヶ岳創響

【設立】2018年

【所在地】〒399-0101 長野県諏訪郡富士見町(番地非公開)

【連絡先】090-3504-7366 
【代表者】戸倉 敬
【事業内容】スピーカー製作・販売

【主要取引先】漆器工房「木の器」、富士見鉄工株式会社 ほか
【主力製品】2aRs2(Active Acoustic Reflection Speaker System)、Marine ほか

【webサイト】https://2ars2.audio/

 

(記載の内容は全て取材時点の情報です)

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