世界の釣り人が認める
高性能リールの立役者
釣りの起源は、約4万年前の旧石器時代。動物の骨を削った道具で魚を獲り始めたことが始まりだ。今ではレジャーとして親しまれている釣りだが、使う道具によって結果が左右される繊細なスポーツとしても人気がある。多くの人を魅了する「釣り」には欠かせないリール。その主要部品を生みだす老舗企業が富士見町にある。創業63年、金属の切削加工を得意とする株式会社三井精工だ。“釣り人”たちが探し求める最高の相棒・リールの部品開発に情熱を注いできた三井精工。メーカーとの取引は60年を迎え、いまも部品メーカーとしての探究が続いている。
三井精工とリールとの出会い
株式会社三井精工の創業は1957年。創業当時はオルゴールやカメラの部品を主力製品としていたが、下諏訪町にある三協精機(現:日本電産サンキョー)からの提案で、リールの部品の製造に着手。当時、三協精機と資本提携していた大和精工株式会社(現:グローブライド株式会社)との取引が始まった。参入当時、手掛けたリールはアメリカで人気のクリスマスプレゼント用のおもちゃだった。1シーズンに30万から50万個と取引額は大きかったが、クリスマス商材だけに、季節ごとの作業量にばらつきが大きいことが課題だった。そこで季節ごと、釣る魚ごとに異なるリールを開発し、年間を通じて生産・販売できる商品を開発していった。
リールの本質を支える機構部品
一口にリールといっても、手動と電動、趣味で小魚を釣るための小さなものから外洋でカジキマグロを釣り上げるための大きなものと、種類も大きさもさまざまだ。小さなリールでも使用する部品の数はおよそ200個。大きなものや電動リールだと400を超える部品が使われている。
現在、三井精工が手がける部品は180種類。それぞれにサイズ違いや色違いの展開があるため、取り扱い点数は1000以上に上るという。主力製品は、メインシャフト、ギアシャフト、ピニオンギア、そしてレベルワインドピンの4つだ。どれも糸を手繰るのに重要な部品で、高い寸法精度が求められるものばかりだ。
特にレベルワインドピンは糸の出し入れに関わる最も重要な部品。獲物がかかった際、釣り人たちは瞬時に糸を巻き入れる。1分1秒も無駄にできない状況において、片手でスムーズに巻き入れできるリールの質が試される瞬間でもある。糸が偏らず、よりスピーディーに巻き入れできる水平往復運動を盛り込んだ部品は、三井精工の自信作となった。日本製のリールに水平往復運動技術が使われるようになったも三井精工が手がけた部品があったからこそ、といっても過言ではない。
その滑らかさにはメーカーの太鼓判があるという。
しかし取締役社長・三井新成は、満足はしていない。リールを手に取りながらこう語る。
「高品質な部品を作っている自負はあります。レベルワインドピンでいえば、稼働時の滑らかさはまだまだ追求できます。釣りは、手の感覚がモノをいう世界です。よりスムーズに、より滑らかに、より静かに、魚を釣りあげるとき、少しの違和感や引っかかりがないものを作りたいと思っています。もっともっとユーザーさんに愛される 製品を目指さねばなりません」
「釣り」市場の成長とともに
釣りは日本でも古くから親しまれるレジャーの一つだが、国内の釣り人口は2020年現在約670万人(レジャー白書2020参照)。2004年に1290万人でピークを迎えて以降、徐々に減り続けてる。減少傾向にある日本に対し、海外、特に環太平洋地域のアメリカ、台湾、韓国、シンガポールでは増加傾向にあり、グローブライドの釣り具も半数以上が海外に輸出されている。
昨今は富裕層向けの高額、かつ高品質の釣り具が注目されており、三井精工のレベルワインドピンを使ったリールも海外で高く評価されている。
知恵と思いが支える技術開発
海外向け製品は一度に大量の部品が必要になるため、量産化が必須。それを可能にしたのは、三井精工独自の技術であるメインシャフトとレベルワインドピン製造の機械化だ。なかでも画期的だったのはNC旋盤に角度をつけた2枚の刃を設置することでレベルワインドピンの製造工程を減らしたことにある。
もともと4工程あったものを一つの工程に収めることで生産性は一気に向上。完全機械化しつつもより高い寸法精度を生み出すことに成功したのだ。
この開発は三井自身も「他社では考えつかない方法だろう」と自負するもので、メーカーからも表彰されるほどのアイデアだった。
この技術をもって、三井精工のレベルワインドピンは、約30年前から大手リール メーカー・グローブライド 株式会社が製造するリール部品で100%のシェアを獲得している。そのほか3種類の部品についても70〜80%という高い数字を誇っている。
一つのメーカーと60年近くにわたって取引を続けてこられた秘訣はなんだろうか。「メーカーの方には都合よく使っていただいた、というのが長く続ける秘訣かなと思います」と三井は語る。「都合よく」というのはずいぶん謙遜した表現だが、当然それだけでは長続きはしない。
たびたびメーカー担当者は三井精工を訪れ、技術面や触り心地、カラーリングといった商品展開に関する相談をしに来る。そんな時、毎回、三井自らが先頭に立ちスピード感を持って対応してきたのだ。
「メーカーさんがわざわざ富士見町まで足を運んでくれるんですから、通常業務が終わっても定時には帰れませんよ。話が盛り上がってサンプル作りを始めると、担当の方と一緒に夜中まで機械を覗き込んでいたこともよくあります。新しいものを生みだすには根気や時間がかかるものです。期待してくれるんですから、応えないわけにはいきません。それにうちにはまだまだ現役として使える古い機械があるんです。古い機械っていうのは、アイデア次第で最新の機械じゃできない繊細なことができるんです。失敗と成功の繰り返しですが、新しいものを生みだす、さらに高みを目指す開発というのは時間で割り切れない部分がたくさんあるんです。」
三井の言葉からは、製品開発への熱意、そして人情味あふれる開発者としての思いが伝わってくる。
社員の最高齢は71歳。
社員とともに、地域とともに
三井精工では社員育成にも力を入れている。作業は細分化された分担制ではなく、ひとりで機械のプログラミングから段取り、メンテナンスまで一貫してできるようにしている。作業効率を考えれば、1人あたりの作業領域を狭めて次の工程に流していくほうがいい。しかし、技術職を育てる上で、一連の流れを知り体得しておくことは欠かせないと考えている。
社員の最高齢は71歳。高い技術をもつ社員には、就業時間や出勤日数を減らしてでも可能な限り長く働いてもらいたいという。生きがいと誇りを持って活躍して欲しいという気持ち、そして若い技術者が先輩技術者の動きや姿から学ぶべきものは多いと考えているからだ。
さらに、三井は時代に対応した柔軟な経営を目指し、いずれは息子に会社を引き継いでいくつもりだ。しかし技術がものを言う世界。バトンを渡してすぐ引退というわけにはいかない。
「息子には従来の仕事を引き継ぐだけではなく自分の課題を見つけるよう言っています。彼には社内のシステム構築や改善、新しい機械を任せています。これからはマシニングセンターでやっていく時代です。いまあるリールの仕事に肉付けをしていってもらいたいと思っています。会社が長く続くためには、リール以外の他の主力製品を持つことも大切です。これまでの技術と新しい知恵で仕事を広げていってもらいたい」
いまある仕事と取引先を大切にしつつ、時代やニーズの変化に柔軟に対応する姿勢。メーカーが信頼を寄せるのも頷ける。この人に、この会社に相談したいと思わせる力があった。
取材・執筆:田中ゆきこ(尽日舎)
構成・編集:澤井理恵(ヤツメディア)
写真:高橋博正(山の上スタジオ)/山田智大(やまかめ)
動画:山田智大(やまかめ)
株式会社三井精工
【設立】1957年
【住所】長野県諏訪郡富士見町富士見11675
【連絡先】0266-62-3121
【代表者】取締役社長 三井新成
【従業員数】24名
【事業内容】複合切削加工/内径ホーニング(研削)加工、スパロール加工、六角ブローチ加工など
【主要取引先】グローブライド(株)、タカノ(株)、オリップ(株)、エコースチール(株)
【主力製品】ギヤーシャフト シャフト リール部品 FA関連部品 アクチヱータ部品
【設備情報】ターニングセンター、NC旋盤、NC自動旋盤、円筒研削盤、内径研削盤、ホーニングマシン
【webサイト】http://suwa.monozukuri.or.jp/detail/00071/
(記載の内容は全て取材時点の情報です)
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